良いトレーナーは“種目数”ではなく、身体を見る力で決まる

著者:川口 昊映(FOUNDER / ACADEMY DIRECTOR)

トレーナーとして経験を積んでいくと、使える種目は少しずつ増えていきます。

筋力トレーニング、ピラティス、ストレッチ、モビリティ、リリース、呼吸、コンディショニング。

資格を取得したり、研修を受けたり、新しいメソッドを学んだりすることで、指導の引き出しは確実に増えていきます。

もちろん、それ自体はとても大切なことです。

ただ、長く現場を見てきて、そして多くのトレーナーの成長を見てきて感じるのは、

「たくさんの種目を知っていること」と「良いトレーナーであること」は、必ずしも同じではない

ということです。

むしろ大切なのは、

目の前のお客様を見て、今その人に何が必要なのかを判断できること。

私はこれを、トレーナーにとっての「身体を見る力」だと考えています。

身体を見るとは、姿勢を見ることだけではない

「身体を見る」と聞くと、姿勢評価やアライメント、関節の位置、左右差などを想像する人が多いと思います。

もちろん、それらは非常に重要です。

しかし、実際にお客様を指導するときは、それだけでは足りません。

その日の声のトーン。
表情。
目の動き。
疲労感。
仕事でどれくらい疲れているのか。
睡眠は取れているのか。
最近ストレスが多いのか。
運動経験はどれくらいあるのか。
本人が一番改善したいことは何なのか。

こういったこともすべて含めて、お客様の状態を見ていく必要があります。

同じ「肩がつらい」という方でも、デスクワーク中心の方と、育児中の方と、トレーニング経験が豊富な方では、身体の使い方も背景も違います。

同じ種目をやれば同じ結果が出るわけではありません。

だからこそ、最初から「今日はこれをやる」と種目を決めるのではなく、

今この人はどんな状態なのか

を知ることが大切です。

静止した姿勢だけで判断しない

姿勢を見ると、左右差や骨盤の位置、肩の高さ、重心の偏りなど、気になる部分は見えてきます。

しかし、それを見ただけで、

「ここが悪い」
「これは直さなければいけない」

と決めつけてしまうのは危険です。

身体には、その人なりの癖や適応があります。

仕事の姿勢、スポーツ歴、過去のケガ、普段の動き方などが積み重なって、今の身体の使い方が作られていることもあります。

だから私は、静止した姿勢だけでなく、

実際に動いてもらうことが重要

だと考えています。

スクワットをしたときにどう動くか。
片脚で立ったときにどうなるか。
腕を上げたときにどこが動いて、どこが動きにくいのか。
呼吸をしたときに胸郭や体幹がどう動くのか。

静的評価と動的評価の両方を見ることで、初めて分かることがあります。

「自分が得意な方法」にお客様を当てはめない

これはトレーナーにとって、とても大事なことだと思っています。

ピラティスが得意だから、全員にピラティスをする。

筋力トレーニングが得意だから、全員に筋トレをする。

もちろん、それぞれの専門性を持つことは大切です。

ただ、お客様を見る前に「自分はこれが得意だからこれをやる」と決めてしまうと、

それはお客様に合わせているのではなく、

自分の得意な方法に、お客様を合わせている

ことになってしまいます。

本来は逆です。

お客様の目的、身体の状態、体力、運動経験、生活環境、その日のコンディションを確認しながら、

その人に今必要なものを選ぶ。

ピラティスを優先する日もある。
筋力トレーニングをしっかり行う日もある。
ストレッチやコンディショニングを中心にする日もある。

大切なのは方法ではなく、

今その人に何が必要なのかを選べること

です。

実際の現場では、その日の状態で内容を変える

実際の店舗運営の中でも、

「予定していた内容を、その日のコンディションに合わせて変えた」

という報告はよく聞きます。

例えば、お客様が寝不足だったり、仕事の疲労が強かったり、体調があまり良くない状態で来店されたとします。

そのときに、

「今日は予定では下半身トレーニングだから」

と、そのまま高い負荷をかけるのか。

それとも、

今日は負荷を下げて、呼吸やピラティス、コンディショニングを中心にするのか。

ここに、トレーナーの判断力が出ます。

事前に決めたメニューをやり切ることが正解ではありません。

むしろ、

予定を変えられることも、トレーナーの技術の一つ

だと思っています。

Reborn Pilatesの実技研修で受講者が動きを見ながら学ぶ様子

トレーナーの引き継ぎで見える「本当に大切なこと」

店舗運営をしていると、トレーナーの退職や担当変更によって、お客様を別のトレーナーへ引き継ぐことがあります。

このときに、とても多くのことが見えます。

前任のトレーナーがどのように指導していたのか。
お客様が何を大切にしていたのか。
どのような運動を好んでいたのか。
どんな声かけが合っていたのか。

引き継いだ新しいトレーナーが、その情報をどう受け取って、どう自分の指導へ落とし込むのか。

そして実際に、

「前より身体の状態が良くなった」
「筋トレだけではなくピラティスを組み合わせてもらったら、コンディションが良くなった」

といったお客様の声を聞くこともあります。

これは、前任の指導が悪かったという話ではありません。

大切なのは、

お客様の状態を改めて見て、新しい視点で必要なものを組み合わせた結果、変化が生まれた

ということです。

こういったことを現場から報告で聞くたびに、

やはり「方法を増やすこと」だけではなく、

お客様を見る力と、必要な方法を選ぶ力

が大切なのだと感じます。

Reborn Pilatesで見てきた、伸びるトレーナーの共通点

私はReborn Pilatesのスクールで、毎回現場に入り、韓国側の講師と受講生の間に入りながら、同時通訳もしつつ指導に関わってきました。

その中で、多くの受講生や卒業生を見てきました。

資格を取った直後の人。
現場経験がまだ浅い人。
すでにトレーナーとして働いている人。
自分の店舗を持ちたい人。
さらに指導力を高めたい人。

その後、卒業生が実際の現場でどのように働いているか、どれくらい成長しているかを見る機会もあります。

そこで強く感じることがあります。

伸びるトレーナーには、いくつか共通点があります。

一つは、

自分自身が常に動く練習をしていること。

ピラティスでも筋力トレーニングでも、頭で理解しているだけでは足りません。

自分で動いて、

どこに負荷がかかるのか。
どうすると動きやすくなるのか。
どこで安定感が変わるのか。

自分自身の身体で理解している人は、指導の深まり方が違います。

そしてもう一つは、

人を動かす練習をしていること。

自分ができることと、お客様をできるようにすることは別です。

言葉で伝える。
見本を見せる。
位置を変える。
キューイングを変える。
必要に応じてハンズオンを使う。

どうすれば目の前の人が理解できるかを考え続ける人は、やはり成長が早いです。

ピラティス実技を通して身体の動きを確認する研修風景

「自分のファンを増やしたい」という意識

これも非常に大切だと感じています。

ここでいう「ファンを増やす」というのは、

SNSのフォロワーを増やすという意味ではありません。

この人にまたお願いしたい
この人のセッションを受けたい

と思ってもらえる人を増やすということです。

この意識が強いトレーナーは、お客様をよく見ます。

今日は元気なのか。
少し疲れているのか。
何を求めているのか。
以前話したことを覚えているか。
前回より何が変わったのか。

こうした小さな部分まで自然と見るようになります。

結局、それがお客様との信頼につながっていきます。

「ピラティスが好き」「この仕事が好き」は強い

そして、これは非常にシンプルですが、

ピラティスが好きな人、この仕事が好きな人は伸びるのが早い

と感じます。

好きだから学ぶ。
好きだから練習する。
好きだから新しいことを取り入れる。
好きだから、お客様が良くなることが嬉しい。

この積み重ねは非常に大きいです。

逆に、資格を取った時点で満足してしまう人と、

「もっとできるようになりたい」
「もっとお客様に喜んでもらいたい」

と考え続ける人では、

1年後、2年後に大きな差が出ます。

学ぶ姿勢がお客様からの支持につながる

現場を見ていると、

自分のスキルを伸ばしたいという意欲が強いトレーナーほど、お客様から支持されていると感じます。

それは単純に技術が高いからだけではありません。

学び続けている人は、

お客様への伝え方も変わる。
種目の選び方も変わる。
身体を見る視点も増える。
セッションの組み立ても変わる。

結果として、

お客様の満足度や継続率にもつながっていく

のだと思います。

そして、お客様から喜んでもらえる。
継続して通ってもらえる。
「この人にお願いしたい」と言ってもらえる。

それがトレーナー自身の励みになります。

そしてまた、

「もっと勉強したい」
「もっとできるようになりたい」

という次の原動力になる。

私は、この循環がとても大事だと感じています。

医療との線引きを忘れない

身体を見る力が高まっていくと、当然、身体の変化や問題点にも気づきやすくなります。

ただし、そこで忘れてはいけないのが、

トレーナーと医療の役割の違い

です。

私たちは運動指導の専門家ではありますが、診断をする立場ではありません。

「治ります」
「絶対に良くなります」

と断定することも避けるべきです。

痛みや症状が強い場合、医療機関を受診してもらうことが必要なケースもあります。

自分の役割を理解し、

運動指導としてできることに集中する。

これも信頼されるトレーナーには必要な姿勢だと思います。

良いトレーナーは、種目を知っている人ではなく、選べる人

長く現場にいると、いろいろなタイプのトレーナーを見ます。

資格をたくさん持っている人。
知識が豊富な人。
技術が高い人。

それぞれ素晴らしいことです。

ただ、最終的にお客様から支持されるのは、

目の前の人を見て、その人に合う方法を選べる人

だと思います。

種目を100個知っていても、

今この人に必要な種目を選べなければ意味がありません。

逆に、まだ知っている種目が少なくても、

見る。
考える。
選ぶ。
伝える。
実践する。
振り返る。
また学ぶ。

この流れを丁寧に繰り返せる人は、確実に伸びていきます。

TORENAVI ACADEMYで大切にしたいこと

TORENAVI ACADEMYでは、

「身体の仕組みから、必要な運動を選ぶ。」

という考え方を大切にしています。

資格を増やすこと。
種目を増やすこと。

それだけが目的ではありません。

身体を見る。
考える。
選ぶ。
伝える。
実践する。
振り返る。
そしてまた学ぶ。

この循環を身につけることで、

トレーナーとしての指導の幅も、
お客様を見る視点も、
少しずつ深くなっていきます。

良いトレーナーになるために必要なのは、

どれだけ多くの種目を知っているかではなく、

目の前の人をどれだけ丁寧に見て、その人に合ったものを選べるか。

そして、

学び続けようと思えるか。

私は、そこが一番大切だと考えています。

あわせて読みたい
ピラティス資格取得後、トレーナーは何を学ぶべきか?|現場で成長し続けるために必要なこと